倉本和昌氏 特別インタビュー 前編

バルセロナやビルバオなどのスペインクラブ、また、大宮や湘南などのJクラブでもコーチを歴任。非常に貴重な経歴をお持ちの倉本さん(以下、倉本氏)にインタビューの機会を頂きました。2回にわたり、お伝えしたいと思います。※インタビュアー soccercoaching.jp(以下、SC)

SC:まずは、2つの国で育成年代を指導されたご経験について伺いたいのですが。スペインとJクラブ、日本の一般的な指導基準として、倉本さんが感じる大きな違いはありますか?指導者ライセンスのカリキュラムや合否基準などの違いも教えいただけると幸いです。

 

倉本氏:まず、サッカーというスポーツをどういう風に捉えるか?からスタートしていると思います。サッカーはそもそも戦いです。なぜなら2チームあるのに1つしかボールがないからです。

そしてどんな戦いなのかというと・・・

「ゴールルートを作る主導権を奪い合う戦い」なんです。(あくまでこれは私個人の定義ですが。)

 

SC:興味深い定義ですね!

 

倉本氏:ということは、技術も戦術も、スペースをあけることも、ドリブルも、ロングパスもコンビネーションも全て「ゴールルートを作るための手段」となります。なので、ドリブルかパスかどっちか? ではないのですね。どちらも手段の一つなので。

 

SC:ゴールルートへの手段を選択するということなのですね。

 

倉本氏:そして、スペインと日本の違いをまとめると3つあります。全て環境によるものなのですが。

 

SC:3つの違いですか。具体的にはどんなものなのでしょうか?

 

倉本氏:1つめは「サッカーは真剣に没頭する趣味である」ということです。だから本気で遊んでいる。趣味であるという意味は、サッカーを教えてそれを仕事にしている人がほとんどいないということです。つまり大半のコーチがサッカーとは別に仕事を持っていて、仕事が終わってコーチとしてトレーニングに出てくる。

なので、そのコーチの能力が問われるのは「いかにチームを率いて良い結果を出すか?」だけなんです。彼らは好きだからこそ、熱中しているサッカーというものを突き詰めたいと思ってやっているだけなんです。日本的に言うとオタクなわけです。

 

よって、チームの成績が悪かったり、チームを一つにまとめられることができないと、まず選手からボイコットされるか、親から文句を言われるか、最後はそのクラブの責任者から首を言い渡されます。

それがダメだというわけではなく、常に「何が上手くいかなかったのか?」を考え、次に活かすというサイクルを回していくわけです。

 

逆に日本の指導者の待遇は良いとも言えます。街クラブでも、スクールコーチでも子どもにサッカーを教えるだけで食べていける人が多くいます。それがスペインでは基本ありえないというわけです。

 

SC:それは意外な感じがしますね。スペインの方が職業としてコーチに携わっているイメージがありました。むしろ、日本の方が、仕事として食べていけるのですね。

 

倉本氏:例えば、バルサの下部組織のコーチたちでも、それだけで食べている人が少ないのです。なので、僕がJクラブのコーチして育成年代に関わっていて、それだけで生活していけるとスペイン人の友人に話すと「俺も日本に連れてってくれ!」と必ず言われます。

 

SC:とても意外な驚きです! 2つめは何でしょう?

 

倉本氏:2つめは「ライセンスの取得しやすさと勉強時間」です。

スペインでは、各県でライセンスを発行しており、外国人でも簡単に入ることができます。ただ、入るのは簡単で合格するのが難しい。大体15教科あって、全て10点満点中5点以上取らないといけない。追試もあります。受講生が普段の仕事やチームの練習があることが当然考慮されているので、夜に授業を行うことが多いのも特徴です。日本のように合宿形式で1週間泊まり込みというのはないんです。現役選手や短期間で取得したい人向けの夏合宿形式はあるにはありますが、そこにいけるのは限られた人だけになります。

日本はライセンスに対する門戸が非常に狭い。学びたい意欲がある人はたくさんいるけどA級、S級は人数が制限されており、しかもトレセン活動に関わったかどうかもかなり影響されるので、簡単に取るわけにはいかないのが現状です。

 

SC:日本では、そこの枠に入るのだけで非常に厳しいというのは聞いたことがあります。スペインでは入りやすいけど、出るのが難しいということなのですね。

 

倉本氏:スペインのライセンスはレベル3つあり、すべて取ろうと思うと最低でも3年かかります。トータルの勉強時間は1895時間になりました。日本の場合、仮にD級から始めてS級までいってもトータルの勉強時間は825時間でした。つまり1000時間の差があります。

 

SC:なるほど。勉強時間でも倍以上の差がありますね。

 

倉本氏:そしてスペインで非常に印象に残っているのが、「ライセンスは自動車の免許と一緒だ。取ってからが本当のスタートになる。なぜなら、免許取り立ての人が運転が上手いわけないだろう?車を運転してもいいですよって許可をもらっただけで、運転が上手いかどうかは別の話だから」と言われたことがあります。ライセンスを取ってゴールではなく、あくまでスタートだという考えに非常に納得させられました。

 

SC:つまり門戸は開いているけど、それ相応の勉強時間を取ったうえで、スタートラインに立つ覚悟をもって運転を始めるということなのですね。これは、非常に納得感がありますね。

3つめ違いは何でしょうか?

 

倉本氏:3つめは、「リーグ戦文化(年間で30試合戦っている。ホームアンドアウェー)」になります。8歳からリーグ戦を戦って、18歳になったら300試合の公式戦を戦ったことになります。日本の高校3年生で公式戦を300試合戦ったことがある選手がいるでしょうか?きっといないはずです。代わりに練習試合の数はスペイン人の4~5倍になっていると思います。

練習試合と公式戦は全然緊張感が違うというのは明確です。

 

SC:日本も少しずつ変わってきていますが、トーナメントが主流だった期間が長いですからね。

 

倉本氏:あと、これがレベルの高い選手からそうじゃない選手まで全員のこの機会が与えれていることが素晴らしい仕組みだと思います。レベルに応じて1部、2部、3部と分かれているのでそれぞれのリーグ戦の中で順位を競っています。

 

SC:育成年代での補欠という考え方も日本独特ということを聞いたことがあります。レベルに応じた出場機会を本来与えられるべきなのですね。

 

倉本氏:最近日本でもリーグ戦の文化が少しずつ浸透しつつありますが、試合数自体が少ないと思います。というのは30試合のリーグ戦を組もうと思うと16チーム必要なのですが、日本の場合、10チームや下手するともっと少ない数でのリーグ戦になっています。そうすると結局はあまりトーナメントと変わらない。おまけに10チームで降格するのが下の4チームというレギュレーションもあったりすると、これはリーグ戦のメリットが全然使えないものになります。

 

SC:最後に、少し日本の指導現場についてもお話し伺いたいと思います。この頃、日本ではスポーツと部活動、そしてそこに関わる指導者のあり方が再考されています。私どもでも、いわゆる部活的な指導に危機感を抱くこともあるのですが、スペインと日本の育成トップレベルを知る指導者として、日本サッカーの指導・育成状況をどのようにお感じですか?

 

倉本氏:先ほどお話ししたように日本とスペインで環境面では大きな違いがあることは事実です。

だからこそ日本の場合は、指導する側の力量が本当に求められます。

 

日本ではコーチとしての役目を学校の先生や少年団のお父さんコーチが担ってきたわけです。

その方々の尽力があって今の日本のサッカーがあるわけです。そこは忘れてはいけません。

色々な問題が浮き彫りになってきているように、SNSの発達などで理不尽なことやこれはおかしいのでは?ということが隠れず、表に出てくる時代になりました。つまり、スポーツも過渡期に来ていると思っています。

 

SC:いろいろ貴重なお話をありがとうございました。引続き後編もよろしくお願いいたします。

後編につづく~

 

 

倉本氏略歴

サッカーコーチ専門 世界に通用する指導力育成コーチ

高校卒業後、単身でバルセロナへサッカーコーチ留学。FCバルセロナの素晴らしいサッカーを堪能しながら5年間様々な育成年代の指導に携わる。その後、地元バスク人だけで構成されているアスレチック・ビルバオの育成組織について学ぶためにビルバオへ移住。スペインリーグ3部のチームで分析係を務めるなど、9歳からトップチームまで指導現場に携わり、経験を積む。27歳時に日本のS級ライセンスに相当するスペイン上級ライセンス取得し、帰国。大阪で町クラブでの指導を経て、湘南ベルマーレ、大宮アルディージャとJクラブのアカデミーコーチを計8年務める。日本をサッカーコーチ大国となり、チャンピオンズリーグでプレーする日本人が50人以上になることが夢。

 

倉本さんのセミナー情報などは、こちらのホームページをチェックしてください。

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Category: 海外日本人コーチ
By: Admin
Posted: 2018年07月22日 23:43

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